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米国のクリエイティブ経済政策の現在地:包括的支援の理想から、第2次トランプ政権下の「生存」と「抵抗」の局面へ

  • 執筆者の写真: Arts&Considerations
    Arts&Considerations
  • 1月30日
  • 読了時間: 4分

更新日:2月16日

かつて2022年頃、米国議会では新型コロナウイルス感染症の影響による文化政策の構造変化が議論される中で(弊所代表の作田も、文化庁の調査事業として米国の動向を報告しました)、CREATE ActやPLACE Actといった、クリエイティブ経済を国家の重要な産業として包括的に支援しようとする超党派の動きが活発でした。これらはコロナ禍を経て、それまでの芸術活動の経済活動への過小評価を覆し、雇用のエンジンとして再定義しようとする、経済政策的な試みでした。

しかし、現在の米国における状況は、当時の関係者が抱いた期待とは大きく異なる、極めて峻烈な局面を迎えています。


1. 「クリエイティブ・ワークフォース投資法(CWIA)」の停滞

2024年に連邦議会に提出された「クリエイティブ・ワークフォース投資法(CWIA / H.R.6935)」は、芸術分野を農業や製造業と同等の経済セクターと位置づけ、3億ドル規模の雇用創出プログラムを目指したもので、CREATE ActやPLACE Actの後継といえるものでした。

しかし、この法案は第118議会で提出されたものの、立法プロセスは停滞。2025年1月から始まった第119議会では、共和党が上下両院の多数派を握り、マイク・ジョンソン下院議長、ジョン・スーン上院院内総務、そしてJ.D. ヴァンス副大統領兼上院議長という体制となり、政策の優先順位は劇的に変化しました。


2. 第2次トランプ政権による「文化機関の解体」と予算の転用

第119議会と同じく2025年1月に発足した第2次トランプ政権は、就任直後から文化芸術政策に対して極めて攻撃的なスタンスを取っています。それは単なる「予算削減」に留まらず、連邦政府の支援枠組みそのものを「解体(dismantle)」しようとする動きです。


  • 連邦機関の廃止と職員の解雇: 全米芸術基金(NEA)、全米人文科学基金(NEH)、および博物館・図書館サービス機構(IMLS)といった、文化支援の根幹を担う独立機関の廃止を提案。政府効率省(DOGE)の主導により、NEHの職員の8割が一時帰休や解雇通知を受ける事態となっています。

  • 助成金のキャンセルと不当な留保: すでに承認されていた数千件の助成金が突如キャンセルされ、全米の美術館の約3分の1がその影響を受けています。これについては、政府による「資金の違法な押収(impoundment)」であるとして、裁判所から違法判決や一時的な差し止め命令が出るなどの法的紛争に発展しています。

  • 「アメリカの英雄庭園」への予算転用: NEHの廃止等で削減された文化予算の一部は、トランプ大統領が提唱する「アメリカの英雄たちの国立庭園(National Garden of American Heroes)」の建設費用(約57億円)などに充てられる計画です。


3. イデオロギーによる介入と検閲の懸念

政府による介入は「資金」だけでなく、「内容」にも及んでいます。


  • DEI(多様性・公平性・包括性)の排除: 就任初日の大統領令により、連邦政府機関のDEIに関連する部署が閉鎖され、関連する展示やプログラムが中止に追い込まれています。

  • スミソニアン協会等への圧力: 「アメリカ例外主義(American Exceptionalism)」を強調し、アメリカの歴史を肯定的に描かない展示を「反アメリカ的」として排除するよう圧力がかかっています。

  • 象徴的施設の掌握: 大統領はジョン・F・ケネディ・センター(JFKセンター)の理事を解任し、自らを会長に指名しました。さらに同センターを「トランプ=ケネディ・センター」に改称しようとするなど、私物化とも取れる動きを見せています。


4. 業界の反応とレジリエンス(抵抗の動き)

こうした激震の中で、米国の文化芸術界は沈黙しているわけではありません。

  • 法的対抗: ACLU(アメリカ自由人権協会)や州検事総長、博物館団体などが、不当な助成金取り消しや検閲的な要件(「ジェンダー・イデオロギーを推進しない」という誓約など)に対して次々と提訴し、一部で勝利を収めています。

  • 民間の連帯: 助成金を打ち切られた小規模団体に対し、アンディ・ウォーホル美術財団など民間の芸術財団が緊急支援を行う動きも見られます。

  • アドボカシーの強化: Americans for the Artsなどの団体は、芸術が単なる贅沢品ではなく、地域社会を支える「国家資産」であることを強調し、議員へのロビー活動を強化しています。


まとめと日本への示唆

かつての「包括的な産業支援」という理想的な議論は、現在アメリカでは「表現の自由の死守」と「既存組織の生存」をかけた戦いへと変貌しています。


当事務所では、アーティストやクリエイターへの「適正な対価(Fair Fee)」や「公正な報酬」を実現するための仕組みについて継続的に発信してきました。この「適正な報酬」というテーマも、それを支える公的なインフラや法的基盤がいかに脆いものであるか、現在の米国の状況は残酷なまでに示しています。当事務所としても、こうした国際的な動向を単なるニュースとしてではなく、文化芸術の自律性についての教訓として注視してまいります。

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主な参照ソース:

• American Alliance of Museums, "National Snapshot of United States Museums" (2025)

• Center on Budget and Policy Priorities, "The Trump Administration Is Threatening Libraries, Museums..." (2025)

• Oregon ArtsWatch, "Arts & politics 2025: Trump assaults..." (2025)

Congress.gov, H.R.6935 (118th Congress)

• ARTnews JAPAN 各記事(2025-2026)

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