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トランプ政権のFY2027予算要求、NEA予算を2億ドルから2,900万ドルへ大幅縮小提案―米国芸術文化政策の攻防

  • 執筆者の写真: Arts&Considerations Tomoki Sakuta
    Arts&Considerations Tomoki Sakuta
  • 4 日前
  • 読了時間: 9分

米国の州芸術機関ネットワークであるNASAA(National Assembly of State Arts Agencies)から、2026年4月6日付で「President’s FY2027 Budget Proposes Minimal NEA Funding」と題するメールニュースが配信されました。同機関で立法顧問を務めるIsaac Brown氏による呼びかけの形式をとったこの文書によれば、トランプ政権は2027会計年度予算要求において、National Endowment for the Arts(NEA)の予算を現行の約2億700万ドルから約2,900万ドルへと大幅に減額し、機関の段階的な終了を意図しているとされています。

※なお、日本の会計年度は期首が属する年で表記しますが、米国連邦政府の会計年度は前年10月1日から当年9月30日までであり、FY2027は2026年10月1日から2027年9月30日までを指します。 つまり表記は期末月が属する年となる点に注意が必要です。

NASAAは今回の提案に失望を表明しつつも、昨年の提案や第1期トランプ政権下で繰り返された動きと同様であり、「驚きではない」と述べています。 これは、予想されていたこととはいえ、芸術支援の未来に影を落とす、重大な事態です。

まず確認しておきたいこと――これは「要求」であって最終決定ではない

この点は非常に重要ですが、今回示されたのは大統領による予算要求(budget request)であり、最終的な予算額は議会が決めます。 米国の連邦予算では、大統領が予算要求を提出し、その後、上下両院の歳出過程を経て、最終的な歳出法(appropriations)によって各機関の予算が定まります。 したがって、今回の約2,900万ドル案は政治的には重いシグナルではあるものの、そのまま成立するとは限らないという制度的前提を押さえておく必要があります。

廃止・大幅削減提案は今回が初めてではない

NEAに対する廃止や大幅削減の提案は、今回が初めてではありません。第1期トランプ政権では、FY2018以降、政権側が繰り返しNEAの廃止を打ち出しました。 2020年のAmericans for the Artsの声明でも、FY2021予算要求は「4年連続」でNEA廃止を提案したものであると明記されています。 NASAAも今回のアラートで、FY2027案は昨年の提案や第1期政権時の動きと軌を一にするものであると位置づけています。

そして重要なのは、そのたびに議会がこれを最終段階で覆してきたことです。NEAの公式予算履歴によれば、2017年度149.8百万ドル、2018年度152.8百万ドル、2019年度155.0百万ドル、2020年度162.25百万ドル、2021年度167.5百万ドルと、第1期トランプ政権下でも最終成立額はむしろ漸増しています。 NASAAも2019年時点で、政権が廃止を求める一方、議会では超党派の支持により過去2年連続の増額が実現したと説明しており、「大統領要求」と「議会最終決定」が必ずしも一致しない構図がはっきりうかがえます。

第2期政権下の初年度予算と、その後の横ばい

今回のFY2027要求は、第2期トランプ政権における最初の予算局面(FY2026)とも連続しています。NASAAの今回のアラートも、FY2027案は昨年と同じ方向性だと述べています。 一方でFY2026については、議会が最終的にNEA予算を約2億700万ドル(207百万ドル)で維持し、州・地域向け配分の40%ルール(後述)も守られました。 つまり第2期政権に入ってからも、ホワイトハウス側の縮減姿勢に対して、議会側はNEAの制度的存続を守る方向で動いてきたと整理できます。

ただし、ここで注意したいのは、「議会が守ってきた」ことと「NEAが長期的に十分拡充してきた」ことは別だという点です。NEAの公式予算履歴を見ると、2000年代後半以降に目立った増額が起きた局面は、主として民主党政権下に集中しています。 オバマ政権下では2009年度155.0百万ドルから2010年度167.5百万ドルへ増額され、バイデン政権下でも2021年度167.5百万ドルから2022年度180.0百万ドル、2023年度207.0百万ドルへと大きく伸びました。 これに対し、2023年度以降は2024年度、2025年度、2026年度と3年連続で207百万ドルの横ばいとなっています。

この推移からは、第1期トランプ政権期には「廃止提案は議会が退ける」が、「民主党政権期のような大幅な積み増し」までは至らないというパターンが見えてきます。 第1期政権では増額自体はあったものの比較的小幅な増額の積み上げにとどまり、第2期に入ってからの成立額は今のところ横ばいです。 もちろん、こうした違いは大統領の党派だけで一義的に説明できるものではなく、インフレ率や財政全体の制約、上下両院の多数派構成など、複数の要因が絡んでいると見るべきでしょう。

インフレを考えると、「横ばい」は実質的な漸減

したがって、近年の「横ばい」は名目額の据え置きにすぎません。2023年度から2026年度までNEA予算が207百万ドルで固定されている以上、物価上昇を踏まえれば実質ベースでは購買力が削られていることになります。 NASAA自身も、近年のレポートでインフレと連邦文化支出の関係に触れながら、実質的な水準低下への懸念を示しており、名目上の維持が必ずしも実質水準の維持を意味しないことを示唆しています。 名目横ばいが続くとき、政策的には「緩やかな実質削減が進行している」と捉える方が妥当でしょう。

NASAA型アドボカシーは米国では一般的な制度風景

ここで補っておきたいのは、NASAAのような行政系の専門機関団体が連邦議会や連邦政府に対してアドボカシーを行うこと自体は、米国では特段めずらしいことではないという点です。NASAA自身が、州芸術機関の政策的・財政的利益にワシントンで説得力ある声を与えることを役割として掲げており、連邦レベルでのアドボカシーを自らの中核機能の一つと位置づけています。 これは文化分野に固有の例外的な現象というより、連邦制国家アメリカで広く見られる制度的風景の一部と理解した方が実態に近いでしょう。

教育分野でいえば、AASA(The School Superintendents Association)は、公立学校区の教育長らを代表する全国団体として、連邦教育政策と立法に影響を与えることをアドボカシーの目的に明示しています。 さらにCCSSO(Council of Chief State School Officers)は、各州の初等中等教育行政トップらによる全国組織であり、自らを主要教育課題についてのリーダーシップ、アドボカシー、技術支援を行う団体と位置づけ、連邦機関や議会との関係を活動の前提に据えています。 公衆衛生分野でも同様で、ASTHO(Association of State and Territorial Health Officials)は州・準州の公衆衛生当局を代表する団体として、議会および政権に対して会員を代表して働きかけ、議会証言の準備まで支援すると明示しています。

さらに州政府全体のレベルでも、全米知事会議NGA(National Governors Association)は、知事の見解が連邦政策形成に反映されるよう政府間関係部門が活動していると説明しており、州側の立場を連邦レベルで代弁することを組織目的の一部としています。 NASAAの連邦アドボカシーは、こうした他分野の州・公的専門ネットワークと並ぶ動きとして捉えると、その位置づけがより明瞭になります。

なぜNASAAが強く反応するのか――40%ルールとパートナーシップ

NASAAが今回のメールで強い危機感を示しているのは、NEAが単独の連邦助成機関である以上の意味を持つからです。NASAAによれば、NEA助成財源の約40%は州芸術機関と地域芸術団体に配分される仕組みになっており、これは長年にわたり「連邦・州パートナーシップ」の制度的柱として機能してきました。 したがって、NEAの大幅縮小は、連邦の象徴的な文化機関の問題にとどまらず、各州の文化行政や地域の助成インフラに直接影響します。

NASAAにとって、これは加盟団体たる州芸術機関の財政基盤と政策裁量に関わる問題であり、制度の根幹に触れるものです。 FY2026予算で議会が207百万ドルと40%ルールを維持したことを、NASAAが「連邦と州のパートナーシップが守られた」と評価しているのも、この構図を踏まえれば理解しやすいでしょう。

今回の争点は、「存続」だけでなく「連邦・州パートナーシップをどう守るか」

今回のFY2027要求を政策的にどう見るべきか。過去の経緯を踏まえれば、今回も議会が大幅削減や廃止を退ける可能性は十分あります。 実際、第1期トランプ政権でも、また第2期政権の最初の予算局面(FY2026)でも、最終的には超党派の議会がNEAを存続させ、一定の水準で財源を確保してきました。 しかし同時に、近年のNEA予算は、民主党政権下で大きく積み上がった後はほぼ横ばいで、物価上昇を踏まえると実質的には漸減傾向にあると評価せざるをえません。

その意味で、今回の論点は「NEAが形式的に存続するかどうか」だけではなくなっています。議会が今後も超党派で機関の存立を守るのか、そのうえで、単なる名目横ばいではなく、インフレ下でも実質水準を維持ないし拡充できるのかが問われています。 さらに言えば、NEA予算の40%が州・地域に配分されるという連邦・州の文化政策パートナーシップを、どの水準で、どのような理念のもとに維持していくのかという、より構造的な課題が浮かび上がっています。

連邦制における「連邦―州の文化財政パートナーシップ」をめぐるこの攻防は、日本における国―都道府県・市町村間の文化財政の関係を考えるうえでも、一定の示唆を与えるでしょう。 NEAとNASAAをめぐるFY2027予算の動きは、そうした比較の視点からも今後注視していく価値があります。

アドボカシーツールキットの存在

今回のNASAAのメールは、NEA予算への危機感を示すだけでなく、末尾で具体的なアドボカシーツールへのアクセスを呼びかけて締めくくられていました。 そこでは、とりわけ「Return on Investment: Public Arts Funding」ページに集約されたリソースの活用が推奨され、その中でも現下の政策環境に応じてメッセージをカスタマイズすることを助ける「Strategic Arts Messaging」が重要なツールとして位置づけられています。

「Strategic Arts Messaging」は、芸術支出の「費用」ではなく「投資」としての側面をどう語るか、どのようなエビデンスとストーリーを組み合わせれば、特定の立場の議員や意思決定者に届くのか、といった問いに対して、フレームやキーメッセージ、語り分けのパターンを提供する実践的なガイドです。同時に紹介視されていた「Encourage Legislators to Increase Arts Funding」のページでは、「立法府と建設的に関わるための基本的な心構え」や、「面会・書簡・公聴会証言といった局面ごとの具体的な振る舞い方」が整理されており、アドボカシー経験の浅い実務者にとっても手がかりとなる内容になっています。

こうしたツールキットは、単に米国連邦議会向けの「マニュアル」として読むだけでなく、「どのような根拠と物語が、公共の芸術文化支出の正当性を支えているか」を可視化する資料としても意味を持ちます。 その意味で、予算規模も制度設計も異なる日本においても、芸術文化政策のアドボカシーを構想する際に、メッセージの組み立て方やエビデンスの提示方法、政策環境に応じた語り方の工夫など、多くの点で参照しうるでしょう。

日本への示唆

日本では、芸術文化分野におけるアドボカシーは、しばしば個別事業や補助金枠の確保にとどまりがちで、「投資としての公共支出」を中長期の政策フレームと結びつけて語る試みはまだあまり多くはありません。NASAAが提示するようなツールキットを手がかりに、誰に、どのような価値の連鎖を示すのかという視点からメッセージを組み立て直していくことは、日本における芸術文化政策の言語と論拠の厚みを増していくうえでも、有益な参照枠になりうるのではないでしょうか。

© Arts&Considerations行政書士事務所 

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