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アートワーカーの多様性を確保するための政策はどこまで拡がっているか

  • 執筆者の写真: Arts&Considerations Tomoki Sakuta
    Arts&Considerations Tomoki Sakuta
  • 3 日前
  • 読了時間: 22分

「学生が夏休みにインターンをする機会が制度化されました。選ばれる必要はありますが、採用されたら有給で、最大週33時間、8週間勤めると、124万円の報酬を受け取れます。」と聞いたら、驚きますか?

これが、例えば金融業界の話で、対象もエリート大学生だったら、「まあそんなもんじゃない?」と思う人もいるでしょうが、実はこれは美術館や劇場などの文化機関で、将来的に働く人の多様性を確保し、職場の持続可能性を強化するために行われている、公立校の高校生向けプログラムなのです。


ただし、残念ながら日本の話ではありません。


筆者注:筆者は平成30年度文化庁委託事業「諸外国の文化政策等に関する比較調査研究」の成果報告書の一部をなす『ダイバーシティと文化政策に関するレポート』(平成31年3月)において、アメリカ合衆国部分を担当した。本稿は特に学生等への有給インターンに着目して、上記調査から約8年を経た現時点での状況を追い、制度の源流から、どのように発展し、逆風のなかで何が持続しているかを記録するものです。


ブルームバーグ慈善財団による資金提供


2026年夏、ニューヨーク市の公立高校に通う11年生(高校3年生相当)は、時給29.45ドル(約4,700円※)、週33時間、8週間——総額にして約7,800ドル(約124万円、税引前)の報酬を得ながら、美術館や劇場でキャリアの第一歩を踏み出す機会を得ることができます。

2026年4月時点(1ドル=約160円)による。以下本稿内で同レートで概算。


このBloomberg Arts Internship(BAI)は、Bloomberg Philanthropies(ブルームバーグ慈善財団)が主要資金を提供し、各都市の地域パートナー組織が運営を担うプログラムで、インターンへの給与支払いはもちろん、受け入れ機関(ワークサイト)もBloomberg資金から助成金を受け取ります。 つまり受け入れ側の文化機関にとっても、高校生の指導・監督にかかる人件費の一部が補われる設計になっており、「手弁当で高校生を受け入れる」のではなく、組織として持続的に参加しやすい構造が意図されています。

2012年に始まったニューヨーク以外にも複数の都市で展開されており、2026年夏プログラムについて現時点で確認できる都市別の高校生向け条件は以下の通りです。

都市

インターン時給

期間・時間数

インターン報酬総額※

受入機関補助金(1人あたり)

ニューヨーク

29.45ドル (約4,700円)

週33時間・8週間

約7,766ドル (約124万円)

未公開

(大学生版は1,200ドル)

ボルティモア

21.15ドル (約3,400円)

最大298時間 (7週間)

最大約6,302ドル (約101万円)

1,500ドル (約24万円)

フィラデルフィア

20ドル以上 (約3,200円以上)

週最大35時間・8週間

5,600ドル以上 (約89万円以上)

3,500ドル (約56万円)

デトロイト

生活賃金(リビング・ウェイジ)基準・未公開

週最大35時間・7〜8週間

未公開

2,250ドル (約36万円)

ニューオーリンズ

20.28ドル (約3,200円)

週35時間・8週間

約5,678ドル (約91万円)

2,000ドル (約32万円)

ボストン

未公開

未公開

ワシントンD.C.

未公開

未公開

ロサンゼルス

未公開

8週間(6/15〜8/7)

インターン総額は税引前。総額は時間数が固定の場合の試算。


競争が激化する一方の米国の大学入試において、インターン経験は学業成績や試験スコアでは示せない「主体性と実社会への対応力」を証明する手段として位置づけられてきました。しかし、実際に高校時代にインターンを経験できる生徒は全体の約2%にとどまるともされており、その機会は家庭の経済的・社会的資本に大きく左右されます。BAIはこの不均衡に正面から向き合い、公立高校の最終学年進学予定者に有給インターンと大学進学準備プログラムをセットで提供することで、文化機関のキャリアへの「入口」を意図的に広げようとしています。


労働力の多様性推進政策は、文化芸術分野でも止まらない


このプログラムをはじめとする米国の文化政策が、歴史的に芸術分野から排除されてきた人々——人種的マイノリティ、障害を持つ人々、経済的困難を抱えるコミュニティ——へのアクセスを意識的に設計している背景には、数十年にわたる法制度の蓄積と、2020年以後に実証データを伴って加速したアートワーカーの多様性をめぐる政策的議論があります。そして御存知の通り2025年1月、トランプ大統領が「DEI禁止令」——正式には「Ending Radical And Wasteful Government DEI Programs And Preferencing」、多様性・公平性・包摂性を目的とするプログラムへの連邦資金拠出を終了させる大統領令——に署名した後も、これらのインターンプログラムの多くが形を変えながら継続しているのはなぜか。 その問いを解くことは、米国の文化政策がどのような思想的・法的基盤の上に立っているかを理解することでもあります。本稿では、その全体像を一緒に見ていきましょう。


障害者アクセシビリティ——「アクセス政策」の先達

米国の芸術文化施設における多様性・包摂の政策を理解するうえで、よりも古い歴史的経緯を押さえておく必要があります。それが、障害者のアクセシビリティです。そしてこの系譜は、人種的公正の運動と思想的に深く絡み合いながら発展してきました。

1964年の公民権法が人種・宗教・性別・出身国に基づく雇用差別を禁止したとき、障害を持つ人々への保護は含まれていませんでした。

しかし障害者たちはこの公民権運動に触発され、「自分たちの排除もまた公民権の問題だ」と確信して組織化を始めました。NAACP法的弁護基金の言葉を借りれば、「公民権運動がなければ、障害者のための公民権保護もおそらく実現しなかっただろう」。

その結果として1973年に制定されたリハビリテーション法のSection 504は、連邦資金を受けるすべてのプログラムにおける障害者差別を禁止する条項でした。しかし制定から4年が経っても規制の実施令が出ないまま放置されたため、1977年4月、障害を持つ人々は全米の連邦政府ビルを占拠するシットインを組織しました。

サンフランシスコでは100名以上が1カ月にわたって建物に立てこもりを続け、食料の提供でブラックパンサーが、後方支援でLGBTQ+の団体がこれを支えました。

この連帯の構図——人種的少数派と障害者が互いの闘いを支え合う——は、後のDEI政策の交差性(インターセクショナリティ)の議論を先取りするものでした。この粘り強い抵抗の末、1977年4月28日にSection 504の実施令がついに署名されました。

そして1990年、Americans with Disabilities Act(ADA)が成立します。連邦資金の有無にかかわらず、私立・公立を問わず広く適用される包括的な障害者差別禁止法であり、雇用だけでなく公共施設・輸送・通信の領域にまで「合理的配慮(reasonable accommodation)」の義務を課しました。 文化施設への影響は直接的かつ即座でした。NEAのアクセシビリティ・ディレクターがADA25周年に記したように、「多くの革新的なアクセシビリティ施策はADA制定によるものだが、アドボカシーの取り組みははるかに早くから始まっていた」のです。

具体的には、私立の美術館・博物館はADA Title III、公立館はTitle II、連邦資金を受ける館はSection 504 of the Rehabilitation Actの対象となり、建築的・情報的・コミュニケーション上のアクセシビリティを維持する法的義務を負います。 バリア除去、字幕、音声解説、拡大文字、補助機器、アクセシブルなウェブ情報などが来館者の「完全な経験」を支える構成要素として列挙されており、これらは任意の取り組みではなく法的義務として課されています。

全米ろう協会(NAD)の整理でも、博物館・図書館・ギャラリーは手話通訳、CART、字幕、補助機器などのauxiliary aids and servicesを提供しなければならず、その費用を当該来館者だけに転嫁することはできません。

ここで重要な論点があります。ADAが文化施設に課したのは、物理的なバリア除去にとどまりませんでした。来館者へのアクセシビリティ確保に向けて、施設は「アクセシビリティ・コーディネーターの設置」「アクセシビリティ諮問委員会の設立」「スタッフ研修」「継続的な見直し」という組織的な対応を求められました。 つまりADAは、文化施設が制度として包摂のための内部体制を持つことを法的に要求した最初の仕組みだったのです。この「施設が組織として包摂に責任を持つ」という発想の枠組みは、その後の人種的多様性の議論においても繰り返し参照されることになります。

障害者アクセシビリティ政策と後の人種的多様性政策は同一のものではありません。しかし米国の文化政策において両者は、「文化への参加を妨げる構造的障壁を制度で補正する」という共通の政策言語のなかで並走し、互いに影響を与え合いながら発展してきました。

1992年のLA暴動を受けてゲティが有色人種向けの有給インターンを立ち上げたとき、文化施設が障害者アクセシビリティのために組織体制を整えることを義務づけたADAが成立してから、わずか2年後のことでした。


workforce多様性と組織パフォーマンス——政府の公式見解

多くの方にとっておそらく耳新しい事実を確認しておきましょう。米国の連邦政府は、オバマ政権が始まる以前の2000年代前半から、「workforce の多様性」を単なる倫理的理念としてではなく、組織の任務遂行能力や人材管理と不可分の問題として公式に位置づけていました。

2005年4月に連邦議会上院に提出されたGAO(会計検査院)報告書は、「不公正な扱いの経験や認識、機会や包摂の欠如は、現実であれ認識であれ、政府機関の任務の効率的・効果的な達成を損なう」と明確に述べています。そのうえでEEOC(雇用機会均等委員会)とOPM(人事管理局)が、連邦政府による公正・公平・包摂的な職場の実現を担う中核機関として位置づけられました。

2005年9月のOPM文書は、diversity managementを採用戦略、リーダー育成、柔軟な働き方、多様な人材へのアウトリーチ、障害者を含む代表性分析と結びつけ、上級管理職による方針・予算・個人的コミットメントを必要条件として明記しています。

Federal Human Capital Surveyはこの時点ですでに、従業員が「自組織が連邦労働力の多様性を尊重し歓迎していると認識しているか」を、組織の人材管理能力の重要指標として扱っていました。

さらに時系列を遡れば、1972年の平等雇用機会法が連邦職員に公民権法の保護を拡張し、各省庁に少数派と女性の過少代表を是正するためのアファーマティブ・エンプロイメント・プログラムの策定を義務づけていました。1978年の公務員制度改革法はそれをさらに強化し、「連邦労働力が国民の多様性を反映するためには、能力主義の原則と公正・公平な人事管理が不可欠」と明記しています。ブッシュ政権期のOPM年次報告もまた「この政権は連邦政府における多様性にコミットしている」と述べ、連邦政府を「アメリカの多様性の強みを引き出す workforce を採用・育成する主体」として描いていました。

注目すべきはこの政策言語の広さです。OPMの2005年文書は、多様性プログラムの対象を女性、マイノリティ、退役軍人、障害者と明記しており、accessible formats の提供もその構成要素として位置づけています。 つまり障害者アクセシビリティと workforce の多様性は、この時点で既に連邦の人材管理政策として一つの枠組みに収まっていたのです。こうした歴史的蓄積が、2010年代後半の民間文化セクターにおけるDEI制度化の地盤を作っていたと言えるでしょう。


問題意識の広がりと「加速の契機」

アートワーカーの多様性をめぐる政策的関心は2010年代後半にかけて制度化が一般化しましたが、さらに明確な転換点がありました。2020年——COVID-19パンデミックと、ジョージ・フロイド死亡事件に端を発する人種正義運動の同時進行です。

メロン財団とIthaka S+Rが北米328館・3万人超のデータをもとに実施した2022年調査は、2015年以降に美術館スタッフの多様化は進んでいたものの、2018年時点での変化はなお限定的であり、2020年以後に有色人種スタッフの増加が「substantial increase(顕著な増加)」と呼べる水準で現れたことを明示しています。 同時期の美術館長調査では、DEAIを自らの仕事の中核とみなす館長の割合が2020年比で2倍超に達しており、2020年前後が組織戦略上の一つの転換点だったことが裏づけられています。

加速の背景は単なる理念の拡大ではありませんでした。パンデミックは、雇用・待遇・職場文化の構造的歪みを一気に可視化しました。Museums Moving Forwardの調査は、COVID-19が美術館の働き方そのものを「irrevocably altered(取り返しのつかない変化)」とし、ハイブリッド勤務、ケアの文化、説明責任、抗議運動、そして分野そのものを多様化したいという志向が同時に強まる転換期として描いています。 同調査では、アートワーカーの40%が職場文化が自身の健康に悪影響を与えると回答し、差別を経験した労働者ではその割合が66%に達しました。 DEIが倫理的スローガンにとどまらず、雇用・待遇・職場文化の是正を含む労働環境政策そのものであることが、実証データによって明示されたのが2020年前後だったのです。

同調査でもう一つ注目すべきデータがあります。エントリーレベルの職員は28%が有色人種と、館内で最も人種的に多様な層です。しかし、正式なDEI活動への参加率は最も低く、4人に1人がどう関わればよいかわからないと答えています。 多様な人材は「入口」には届いています。しかし制度的につながれていない——この構造的断絶を解消しようとする政策が、有給インターンやフェローシップの拡充として具体化されてきました。


有給インターンとリーダー育成の全米展開

LAカウンティのAIPが2000年代から積み上げてきたモデルを理解するには、その前史から入る必要があります。

2000年にLAカウンティのBoard of SupervisorsがAIPを設立したとき、そのプログラム設計書には「ゲティのプログラムのコンパニオン(companion program)として」という言葉が明記されていました。 ここで言うゲティのプログラムとは、ゲティ財団が1993年に立ち上げたMulticultural Internship Program(現在のGetty Marrow Undergraduate Internship)のことです。その起源について、地元紙LA Times(2017年のインタビュー記事はこう記しています——「このプログラムは1992年のロサンゼルス暴動への直接の応答として立ち上げられた」。有色人種の学生にLA郡内の文化組織での有給インターンを提供し、アーツリーダーシップのパイプラインを構築しようとする試みで、初年度1993年夏には89名が80の文化組織でインターンを経験し、25年間で3,200件以上、総投資額1,200万ドル超の実績を積み上げました。ただしゲティのプログラムが対象としたのは主に視覚芸術系の組織・美術館でした。 そこで2000年、LAカウンティのBoard of Supervisorsはそれを素晴らしいworkforce developmentのモデルとして、他のすべての芸術分野を対象にプログラムを作ろうと決めてAIPをスタートし、ゲティがカバーしていなかった非営利の舞台芸術・プレゼンティング・文芸・市立芸術組織へと対象を広げる設計で生まれ、発足時の規模はゲティの約120ポジションと「ほぼ同規模」を目指しました。

2025年と2026年のAIPインターンプログラムへのアプリケーションワークショップの動画の中で担当者自身がこう語っています。

「ゲティのプログラムは1993年にスタートした私たちのプログラムの姉妹プログラムです。私たちのプログラムは2000年にスタートし、二つのプログラムはそれ以来並行して走ってきました。そしてこのプログラムの創設以来のゲティの長年の支援に感謝しています(grateful to the Getty for their long-standing support since this program's Inception)」

ゲティ財団は今日に至るまでAIPの教育プログラム部分の資金提供者として関与し続けており、選考パネルにも代表者が参加しています。 この「ゲティ=美術館・視覚芸術、AIP=舞台芸術・文芸」という職能別の分担設計は、後述するアトランタのAlliance Theatreが演出フェローシップとBIPOC舞台監督フェローシップを別立てで設ける構造と同じ発想が、すでに2000年代初頭のLAで実装されていたことを示しています。そしてこの時点から、プログラムは一貫して有給でした。


CEIIからの提言

2015年、ロサンゼルス郡行政委員会は一つの特命を動かしました。郡の芸術委員会(現LA County Department of Arts and Culture、当時は民間非営利団体「Los Angeles County Arts Commission」)に対し、文化組織の多様性を高める方法を郡全体で議論・体系化するよう指示したのです。 このプロセスから生まれたのがCultural Equity and Inclusion Initiative(CEII)です。スタッフ、理事会、観客、プログラム、アーティスト・創作者という五つの領域にわたり、文化的公平性と包摂をいかに制度化するかを提言したこの取り組みで共同議長を務めた一人が、都市計画研究者のMaria Rosario Jackson博士でした。 同博士は2022年にバイデン大統領によってNEA(全米芸術基金)の議長に任命され、アフリカ系かつメキシコ系アメリカ人女性として初めてNEAのトップになった人物として知られています(第2期トランプ政権発足後に辞任)。

CEIIが提言した施策の柱の一つが、有給インターンシップを通じた workforce development(労働力開発)でした。本稿で何度も出てきますが、2000年にゲティ財団との連携事業としてスタートし、当初から有給インターンを実現した画期的なプログラムであったArts Internship Program(AIP)についても、2017年にはCEIIの枠組みのもとでBoard of Supervisorsがコミュニティカレッジ学生向けのインターンポジションを拡充しただけでなく、「芸術分野へのアクセスに構造的障壁を抱えるコミュニティ」を明示的に優先する方針が打ち出されました。2024年には年間228名・160以上の非営利組織を擁する米国最大規模の大学生向け有給芸術インターンプログラムに成長し、年間投資額は150万ドル超に達しています。

つまり1992年の暴動、1993年のゲティによる民間先行投資、2000年の郡行政による補完という三段階の経緯が、2015年のCEIIによる改革へと続く土台を作っています。2020年の人種正義運動より28年前に、同じ「文化へのアクセスと人材パイプライン」の問題意識がすでに制度化されていたという事実は、LAカウンティの取り組みを「近年のDEIブームの産物」などとは決して言えないことを示しています。


そして高校生も対象に


そして、このLAカウンティのMIP(現GMUI)・AIPのモデルが参照されながら展開したのが、本稿の冒頭に紹介した、Bloomberg Philanthropiesが2012年にニューヨークで創設したBloomberg Arts Internship(BAI)です。高校生(rising seniors)を対象とした有給インターンという設計思想はLAのAIPと共鳴しており、財団によれば開始から現在までに250以上の文化機関で1,700件以上の有給インターンを支えてきました。 現在はボルティモア、ボストン、デトロイト、ニューオーリンズ、ニューヨーク、フィラデルフィア、ワシントンD.C.の7都市で運営されており、2026年6月にはLAカウンティへの(ある種「逆輸入」的な)拡張が実現します。これは2025年3月のSupervisor Solisによる動議で正式に承認されたもので、LAカウンティがゲティ財団とともに長年育ててきたMIP(現GMUI)・AIP(ともに大学生向け)とは別に、高校生を対象とする新たな柱として位置づけられています。

またNY,LA郡を除くBAI参加都市が「ラストベルト」や南部を多く含む点は見落とせません。これが、決してニューヨークやカリフォルニアだけの特殊現象でないことを如実に示しています。都市ごとに条件は異なりますが、「高校生に有給で芸術機関のインターンを経験してもらい、コミュニテイの格差を超えて文化機関のキャリアへの入口を開く」という設計思想は共通して持続しているのです。なお、BAIには高校生版の修了生を対象にした大学生向けの延長プログラム「BAI College」も存在し、大学2〜3年生の段階でも同じ文化機関のネットワークに再接続できる設計になっています。入口から大学在学中まで継続的に支援するこのパイプライン構造は、一度きりの「機会提供」ではなく、キャリア形成の複数の段階に介入しようとする意図が明確に示されています。


他の都市での有給インターン・リーダーシッププログラム

コロラド州デンバーのDITA(Diversity in the Arts)は、2019年夏に初年度のインターンを受け入れた大学生・近年の卒業生向けプログラムで、Bonfils-Stanton Foundationをはじめとする地域財団の支援を受けています。 DITAが際立つのは、インターン側だけでなくホスト機関にも継続的なDEIへの取り組みを求め、「DEIの旅路の出発点にいる組織」は受け入れ機関として不適合と明記している点です。

単なる受け入れ数の拡大ではなく、組織文化の変容そのものを参加条件として設定することで、パイプラインが「入口で多様な人材を受け取り、変わらない組織に流し込むだけの装置」になることを防ごうとしています。対象コミュニティも「人種、障害、ジェンダー等を含む、芸術分野で伝統的に過小に代表されてこなかった人々」と定義されており、ここでも障害者アクセシビリティの語彙が包摂政策と重なっています。


ミドルキャリア層への投資という観点では、Creative Westを中心に6つの全米地域芸術団体(RAOs)が共同運営するNational Leaders of Color Fellowshipが重要な位置を占めています。2024–25年度の募集はCreative West、Arts Midwestほか複数の地域団体で案内されており、中西部・南部・東部・西部を網羅する地理的構造をとることで、特定地域への人材集中を避けながら有色人種のアーツリーダーを育成する仕組みになっています。


ニューヨーク市では市文化局が2018年にCultural Development Fundの資金配分見直しを進め、歴史的に不十分な支援しか受けてこなかった団体への是正措置を図りました。大学生向けにはCUNY Cultural Corpsが主要文化機関へのアクセスを2026年も時給20ドルで提供し続けています。 注目すべきはその職能設計で、配属部門はDevelopment & Fundraising(資金調達)、Education & Public Programs(教育・普及)、Communications & Marketing(広報)、Curatorial & Exhibitions(キュレーション・展覧会)、Production Management(制作管理)の5領域にわたります。特定のキャリアへの入口を一つ作るのではなく、文化機関の組織横断的なすべての職能にアクセスを開くという設計思想は、後述するアトランタのAlliance Theatreが演出と舞台監督を別々のフェローシップとして設計する発想と根を同じくしています。


芸術文化政策アドボカシーの全国組織Americans for the ArtsのDiversity in Arts Leadership Internship Program(DIAL)は、伝統的にアーツリーダーシップから排除されてきた背景を持つ学生を全米複数のNPOへ接続する分散型モデルとして運営されており、特定の行政でも財団でもなく全国組織が仲介役となる制度設計の柔軟性が特徴です。


アトランタの事例——職能別に設計されたパイプライン

アトランタのAlliance Theatreは、多様性政策の設計思想を考えるうえで示唆的な構造を持っています。Kenny Leon Directing Fellowshipは、BIPOC限定の制度ではなく、初期から中堅段階の演出家を対象に、Alliance Theatreのシーズン作品に10〜12週間参加する演出フェローシップで、報酬はプロセス全体で3,000ドル、応募条件にはアトランタ拠点であることが含まれています。 一方、別の制度としてNational Vision BIPOC Stage Management Fellowshipがあります。こちらはBIPOCのシアターメーカーを対象とする舞台監督分野のフェローシップで、MFA in Stage ManagementまたはBFA/BA相当の経験を持つ応募者を想定し、最低35週間のEquity契約、Health and Pension、転居補助も含む条件が提示されています。

同じ一つの劇場のなかに、BIPOC限定でない一般的なキャリア育成策と、BIPOCの人材を特定の職能で増やすための明示的是正策が並存している——この構造こそが重要です。 実際の多様性政策は「BIPOC向けの入口を一つ作る」のではなく、演出、舞台監督、教育普及、キュレーション、運営と、職能ごとに異なるパイプラインを設計する方向へと成熟しつつあります。


逆風のなかで何が続くのか

2025年1月、トランプ大統領は大統領令「Ending Radical And Wasteful Government DEI Programs And Preferencing」に署名し、連邦政府内のDEIA部署・助成・契約・業績要件の終了と、バイデン期の人種的公正関連命令の撤回を命じました。ワシントンD.C.のナショナル・ギャラリー・オブ・アートがDEI部門を閉鎖したことは、その影響の具体的な表れとして記録に値します。連邦レベルでは、DEIの名目も制度運用も大きく制約される局面に入っています。

ただし規制強化の中心はあくまで連邦資金と連邦契約の領域であり、「米国内のすべての公的資金でDEI名目が使えなくなった」と一般化するのは正確ではありません。Bloomberg BAIはBloomberg Philanthropiesの民間資金で動き続けており、デンバーのDITAは地域財団の支援で運営され、LAカウンティのAIPは2026年も150万ドル超の投資で継続しています。 National Leaders of Color Fellowshipも2024–25年度の募集が確認できます。


現在起きているのは「DEIの終焉」ではありません。確かにDEIという語の制度的可視性は後退しましたが、アート労働の多様化をめざす実践は「workforce development」「leadership development」「community investment」「access」「Creative Career Pathways」といった別の語彙に分散しながら根強く持続しています。振り返れば1964年の公民権法、1973年のリハビリテーション法、1990年のADA、2000年代のOPMによる人材政策、2015年のCEII、2020年の人種正義運動と実証調査——これらが積み上げてきた系譜は、一つの大統領令によって消去されるほど浅いものではありません。

むしろ連邦の逆風のなかで、民間財団・地域芸術団体・地方行政による分散型パイプラインが持つレジリエンスの高さが、改めて可視化されている局面と言えるでしょう。


参考URL一覧

LAカウンティ・CEII・Arts Internship Program

  1. LA County Department of Arts and Culture「Dr. Maria Rosario Jackson to Chair National Endowment for the Arts」 www.lacountyarts.org/dr-maria-rosario-jackson-chair-national-endowment-arts

  2. LA County Department of Arts and Culture「CEII Advisory Committee」 www.lacountyarts.org/about/cultural-equity-inclusion-initiative/ceii-advisory-committee

  3. LA County Department of Arts and Culture「Los Angeles County Bloomberg Arts Internship Program(学生向け)」 www.lacountyarts.org/BAI-students

  4. LA County Department of Arts and Culture「2026 BAI Summer Internship Positions」 www.lacountyarts.org/opportunities/bloomberg-arts-internship-program-hs-students/2026-bai-summer-internship-positions

  5. LA County Department of Arts and Culture「Bloomberg Arts Internship Program — Apply(受入機関向け)」 lacountyarts.org/funding/bloomberg-arts-internship-program-organizations/bloomberg-arts-internship-program-apply

  6. LA County Department of Arts and Culture「Los Angeles County Bloomberg Arts Internship Program(受入機関向け)」 www.lacountyarts.org/funding/los-angeles-county-bloomberg-arts-internship-program-organizations

  7. LA County Department of Arts and Culture「2026 Art Internship Program: Positions for Community College Students」 www.lacountyarts.org/2026-art-internship-program-positions-community-college-students

  8. LA County Department of Arts and Culture「Arts Internship Program 2020 Final Report」(PDF) www.lacountyarts.org/sites/default/files/2020aip_finalreport.pdf

  9. LA County Department of Arts and Culture「2026 Arts Internship Program Guidelines」(PDF) www.lacountyarts.org/sites/default/files/2025-09/AIP%20Exhibit%20B_2026%20Internship%20Program%20Guidelines_final.pdf

  10. LA County Department of Arts and Culture「October at the Department of Arts and Culture」(2025年10月ニュースレター) content.govdelivery.com/accounts/CALACOUNTY/bulletins/3f93924

  11. LA County Board of Supervisors「Motion by Supervisor Solis, March 4, 2025」(BAI導入承認動議、PDF) file.lacounty.gov/SDSInter/bos/supdocs/200490.pdf

  12. LA County Board of Supervisors「Correspondence Received」(AIP関連文書、PDF) file.lacounty.gov/SDSInter/bos/supdocs/147429.pdf

  13. LA County Department of Human Resources「Arts Internship Flyer」(2015年、PDF) hr.lacounty.gov/wp-content/uploads/2015/10/Arts_Internship_Flyer.pdf

  14. L.A. Focus Newspaper「Largest Paid Summer Arts Internship Program Now Open for Los Angeles County College Students」(2024年4月) www.lafocusnews.com/largest-paid-summer-arts-internship-program-now-open-for-los-angeles-county-college-students/

  15. YouTube「LA County Arts Internship Program: 20th Anniversary Video」(2021年) www.youtube.com/watch?v=UH7-Xj7SH9U

  16. YouTube「2026 LA County Arts Internship Program: Application Workshop」(2025年9月) www.youtube.com/watch?v=-bU1YpOOjDA

  17. YouTube「LA County Arts Internship Program Information Session (Spring 2026)」(2026年2月) www.youtube.com/watch?v=xgc0jHB_3-Y

ゲティ財団・ゲティ・マロー・インターンシップ

  1. LA Times「In its 25th year, the Getty's Multicultural Internship Program is changing the face of arts leadership in L.A.」(2017年7月) www.latimes.com/entertainment/arts/miranda/la-et-cam-getty-multicultural-internship-20170715-story.html

  2. Getty Foundation「25th Anniversary Report」(PDF) www.getty.edu/foundation/pdfs/_reports/25th%20Anniversary%20Report.pdf

Bloomberg Arts Internship(全国・各都市)

  1. Bloomberg Philanthropies「Bloomberg Arts Internship」(公式ページ) www.bloomberg.org/arts/strengthening-local-arts-organizations/bloomberg-arts-internship/

  2. Bloomberg Philanthropies「Bloomberg Philanthropies Expands Innovative Arts Internship Program」(プレスリリース) www.bloomberg.org/press/bloomberg-philanthropies-expands-innovative-arts-internship-program/

  3. Studio Institute「Bloomberg Arts Internship」(NYC高校生版) www.studioinstitute.org/bloomberg-arts-internship

  4. Studio Institute「Bloomberg Arts Internship: College」(NYC大学生版) www.studioinstitute.org/bloomberg-arts-internship-college

  5. Studio Institute「Host a Bloomberg Arts Internship: College Intern」(受入機関向け) www.studioinstitute.org/host-bloomberg-arts-internship-college

  6. Studio in a School「Bloomberg Arts Internship: College 2026」(NYC応募フォーム) studioinstitute.submittable.com/submit/d0488187-cb28-49a7-8196-8e6fcdb4db53/bloomberg-arts-internship-college-2026

  7. Arts for Learning Maryland「Bloomberg Arts Internship」(ボルティモア版) www.artsforlearningmd.org/programs/ost/bloomberg-arts-internship/

  8. Greater Philadelphia Cultural Alliance「Bloomberg Arts Internship」(フィラデルフィア版) philaculture.org/bloomberg-arts-internship

  9. InLiquid「Bloomberg Art Internship Program」(フィラデルフィア版) www.inliquid.org/opportunities-1/bloomberg-art-internship-program

  10. CultureSource「Bloomberg Arts Internship」(デトロイト版) culturesource.org/internship/

  11. KID smART「2026 Bloomberg Arts Internship」(ニューオーリンズ版) www.kidsmart.org/arts-internship-26

  12. Google Forms「2026 Bloomberg Arts Internship(BAI)New Orleans」(受入機関向け募集要項) docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSdfuJ8m8-ECX5xXOoOVJR9rRejYMRQEjW41BAAc8QJUh-fLsw/viewform

  13. Forbes「The Bloomberg Arts Internship Opens Up An Industry To Vital New Talent」(2025年6月) www.forbes.com/sites/benjaminwolff/2025/06/18/the-bloomberg-arts-internship-opens-up-an-industry-to-vital-new-talent/

NEA・連邦政府・OPM・GAO

  1. National Endowment for the Arts「Equity Action Plan of The National Endowment for the Arts」(PDF、2022年) www.arts.gov/sites/default/files/EquityActionPlan_041422.pdf

  2. National Endowment for the Arts「Museums and the Americans with Disabilities Act at 25: Progress and Looking Ahead」(2015年) www.arts.gov/stories/blog/2015/museums-and-americans-disabilities-act-25-progress-and-looking-ahead

  3. U.S. Government Accountability Office「Equal Employment Opportunity: The Policy Framework in the Federal Workplace and the Roles of EEOC and OPM」(GAO-05-195、2005年4月) www.govinfo.gov/content/pkg/GAOREPORTS-GAO-05-195/html/GAOREPORTS-GAO-05-195.htm

  4. U.S. Office of Personnel Management「Diversity Management」(Human Capital Framework参考資料、PDF) www.opm.gov/policy-data-oversight/human-capital-framework/reference-materials/results-oriented-performance-culture/diversitymanagement.pdf

  5. U.S. Office of Personnel Management「Federal Equal Opportunity Recruitment Program Report FY2005」(PDF) www.opm.gov/policy-data-oversight/diversity-equity-inclusion-and-accessibility/reports/feorp2005.pdf

ADA・障害者権利運動

  1. U.S. Department of Justice「Expanding Your Market: Maintaining Accessibility in Museums」 archive.ada.gov/business/museum_access.htm

  2. National Association of the Deaf「Museums, Libraries, Galleries」(PDF) www.nad.org/wp-content/uploads/2020/06/Museums-Libraries-Galleries.pdf

  3. Smithsonian National Museum of American History「Sitting-in for disability rights: The Section 504 protests of the 1970s」(2023年) americanhistory.si.edu/explore/stories/sitting-disability-rights-section-504-protests-1970s

  4. National Park Service「504 Protest: Disability, Community, and Civil Rights」 www.nps.gov/articles/000/504-protest-disability-community-and-civil-rights.htm

  5. Disability Rights Florida「Disability History: The 1977 504 Sit-In」(2023年) disabilityrightsflorida.org/blog/entry/504-sit-in-history

  6. Disability Studies Quarterly「Lomax's Matrix: Disability, Solidarity, and the Black Power of 504」(2011年) dsq-sds.org/article/id/1086/

  7. NAACP Legal Defense Fund「A Shared Struggle for Equality: Disability Rights and Racial Justice」 www.naacpldf.org/disability-rights-and-racial-justice/

  8. Disability Alliance BC「The link between Black liberation and Disability Justice movements」(2026年) disabilityalliancebc.org/the-link-between-black-liberation-and-disability-justice-movements/

調査・研究データ

  1. Mellon Foundation / Ithaka S+R「Art Museum Staff Demographic Survey 2022」(PDF) sr.ithaka.org/wp-content/uploads/2022/11/Mellon-Art-Museum-Staff-Demographic-Survey-11162022.pdf

  2. Ithaka S+R「Art Museum Director Survey 2022」(PDF) sr.ithaka.org/wp-content/uploads/2022/10/SR-Report-Art-Museum-Director-Survey-2022-10272022.pdf

  3. Museums Moving Forward「Findings: Workplace Culture(2022–2023)」 museumsmovingforward.com/data-studies/2022-2023/findings-workplace-culture

各都市・地域プログラム(BAI以外)

  1. DITA(Diversity in the Arts)「Intern with DITA」(デンバー) www.ditainternship.com/intern-with-dita

  2. Denverite「Diversity in the Arts internship program encourages Denver…」(2024年10月) denverite.com/2024/10/29/diversity-in-the-arts-internship-denver/

  3. Creative West「Opening Soon: 2024-25 National Leaders of Color Fellowship」 wearecreativewest.org/opening-soon-2024-25-national-leaders-of-color-fellowship/

  4. Creative West「Introducing the 2024-25 National Leaders of Color Fellows」 wearecreativewest.org/introducing-the-2024-25-national-leaders-of-color-fellows/

  5. Arts Midwest「2024–25 National Leaders of Color Fellowship」 artsmidwest.org/about/updates/now-accepting-applications-2024-25-national-leaders-of-color-fellowship/

  6. NYC.gov「CUNY Cultural Corps」 www.nyc.gov/employment/programs/cuny-cultural-corps

  7. CUNY Hostos College「Fall 2026 CUNY Cultural Corps Internship Program」 www.hostos.cuny.edu/Administrative-Offices/Office-of-Academic-Affairs/Offices-and-Special-Programs/Career-Services-Office/Announcements/Fall-2026-CUNY-Cultural-Corps-Internship-Program

  8. Americans for the Arts「Diversity in Arts Leadership (DIAL) Internship Program FAQ」 www.americansforthearts.org/about-americans-for-the-arts/internships/diversity-in-arts-leadership-internship/faq

  9. Americans for the Arts「National Cohort for the Diversity in Arts Leadership (DIAL) Internship Program」(2022年7月) www.americansforthearts.org/news-room/americans-for-the-arts-news/national-cohort-for-the-diversity-in-arts-leadership-dial-internship-program

  10. Alliance Theatre「Kenny Leon Directing Fellowship」 www.alliancetheatre.org/kenny-leon-directing-fellowship/

  11. Alliance Theatre「National Vision BIPOC Stage Management Fellowship」 www.alliancetheatre.org/content/national-vision-bipoc-stage-management-fellowship

DEI政策・現政関連

  1. ArtPride New Jersey「Other Important Presidential Executive Orders Impacting Arts & Culture」 artpridenj.org/eo

  2. Pittsburgh Arts Council「Trump's Impact on the Arts: A Running List of Updates」 www.pittsburghartscouncil.org/blog/trumps-impact-arts-running-list-updates

高校生インターン・大学入試関連

  1. Ladder Internships「How High School Internships Boost College Admissions Success」 www.ladderinternships.com/ladder-internships-blog/how-high-school-internships-boost-college-admissions-success

  2. CirkledIn「High School Internships: Value & How to Find Them」 www.cirkledin.com/library/internships-and-job-opportunities/high-school-internships-student/

  3. NSHSS「How High School Internships Enhance Your College Journey」 www.nshss.org/resources/blog/blog-posts/how-high-school-internships-enhance-your-college-journey/


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