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障害者アートの企業連携・商品化と権利保護を考える

  • 執筆者の写真: Arts&Considerations Tomoki Sakuta
    Arts&Considerations Tomoki Sakuta
  • 2 日前
  • 読了時間: 26分

更新日:10 時間前

東海・北陸ブロック障害者芸術文化活動広域支援センター 第2回 権利保護ミニ講座レポート



第1章:なぜ今、これが問題なのか


「作品だけが旅をして、描いた人が置き去りにされていないか」


この問いは、アサダワタル氏(『当事場をつくる』著者)がnoteに記した言葉です。近年、障害のある作家の作品を活用した企業連携やライセンスビジネスが急速に広がっています。ヘラルボニーをはじめとする事業者が先鞭をつけ、福祉事業所や支援センターにも「うちでもやってみたい」「企業から問い合わせが来た」という声が増えています。しかし、その広がりの速さに、権利処理や本人保護の議論が追いついていないのが現状です。


本記事は、2026年5月に開催された「企業連携・商品化・二次利用の基本と利益相反の概念整理」をテーマとした権利保護ミニ講座(第2回)の内容をもとに、行政書士として東海北陸ブロックの支援センター向けアドバイザーを務める私(作田知樹)が解説したものを再構成したものです。



1-1「障害者アートは人権の問題」という出発点


講座の冒頭で取り上げたのは2本のSNS投稿です。一つは川田祐一氏がX(旧Twitter)に公開した「障害者アート業界は腐ってます。障害者アートは人権の問題」と題した投稿。発達障害のある当事者の画家から届いた言葉を受けて書かれたその文章は、障害者アート・アール・ブリュット・福祉施設・成年後見・報酬・契約・本人の意思決定の問題を、強い調子で問いかけるものでした。


もう一つが、アサダワタル氏によるnote記事です。アール・ブリュットや障害者アートの領域で長く関わってきた経験から、氏はこう問いかけます。


「本人は知っているのか。本人は選べているのか。本人は断れるのか。本人はやめられるのか。本人に返っているのか」


両氏が指摘する問題の核心は、「アール・ブリュット」「やりがい」「社会参加」「支援」という言葉が、報酬・契約・本人の同意確認をひどく曖昧にする構造にある、ということです。「好きで描いているのだから」「福祉サービスの一環だから」「社会に紹介されるだけでもありがたいのだから」——こうした言葉の中で対価の問題が後回しにされてきた現実が問い直されています。


私自身の経験は川田氏やアサダ氏に比べるべくもありませんが、「障害者アートは人権の問題」という認識は行政書士として、また芸術と法に関わる立場として全く同意見です。この認識を出発点として、企業連携・商品化・二次利用をめぐる基本的な考え方と利益相反の構造を整理することが今回の目的でした。



1-2 政策的背景——制度が「加速」を求めている


この問題を個別事業者の不適切な対応だけで説明することはできません。制度的な文脈も重要です。文化芸術基本法(2017年改正)は障害者等の文化芸術活動の充実を国の責務として位置づけており、その上に2018年制定の障害者による文化芸術活動の推進に関する法律(障害者芸術推進法)が重なっています。同法第7条に基づく基本計画は第2期(2023年策定)に至り、発表機会や企業連携の促進が政策課題として明示されました。


この法体系の実施機関として、厚生労働省の障害者芸術文化活動普及支援事業が全国に障害者芸術文化活動支援センター(以下、支援センター)を設置しています。本講座の参加者が担っているのがまさにこの役割です。支援センターが発表機会や企業連携の機会を広げるほど、権利処理・同意確認・対価・利用条件の透明性をどう支えるかが実務上の中核課題となる——この構造そのものが、今日の問題を生み出している背景にあります。



1-3 今日の問いは「組織のガバナンス」の問題


もう一点、講座を通じて強調したかったのは、これを「担当者個人の問題」にしてはいけないという視点です。現場の支援員が「なんとなく気になっていた」「でも上に言えなかった」——そういう構造が続く限り、問題は可視化されません。


企業連携・二次利用に関わる権利処理の問題は、本人の人権に直結するとともに、組織としてのガバナンス、すなわち「どのようなリスクを認識した上で、どのように意思決定するか」という組織運営の根幹に関わるものです。利益相反があるからといって「何もやらない」では、障害のある作家の表現が社会に届く機会が失われます。一方で「利益相反でもいいからとにかく前に進む」では、本人が知らないうちに不利な条件を飲まされるリスクが生じます。この二択ではなく、リスクを正確に把握した上で、組織として判断・記録・説明できる体制を整えること——それが今、求められていることです。



第2章:権利の基本構造——著作権と所有権はどう違うのか



企業連携や商品化の話を進める前に、まず「誰が何の権利を持っているのか」という前提を整理する必要があります。ここで最初につまずくポイントが、著作権と所有権の混同です。



2-1 著作権は「情報をコントロールする権利」


著作権は、思想または感情を創作的に表現した「著作物」に発生する権利です。ここで重要なのは、著作権はあくまで情報に対する権利であって、物に対する権利ではないという点です。


講座では消しゴムを例に説明しました。アンパンマンのキャラクターがケースに描かれた消しゴムがあるとします。その消しゴムを購入した人は、それを使ったり人に貸したり、役割を終えたら捨てることもできます。これは所有権の問題であり、著作権とは関係ありません。ところが、そのキャラクターの絵を別の場所にコピーしたり、元の絵に手を加えて「改変版」を作ったりすることは、著作権者の許可なしには行えません。著作権はその「情報」——絵のデータそのもの——に働く権利だからです。物理的なモノと、そこに宿る情報とは、全く別の権利関係として把握する必要があります。



2-2 著作財産権と著作者人格権——「権利の二層構造」


著作権は一つの権利ではなく、大きく2種類に分かれています。


著作(財産)権は、複製権・展示権・公衆送信権・翻案権など複数の権利からなる「権利の束」です。これは契約によって他者に譲渡したり、一部だけを許諾(ライセンス)したりすることができます。たとえばキャラクターの著作権が出版社に帰属しているのは、このような著作財産権の譲渡が行われているためです。


著作者人格権は、公表権・氏名表示権・同一性保持権からなり、作者の人格と結びついた権利として、譲渡も相続もできない一身専属権とされています。たとえ著作財産権をすべて他者に譲渡した後でも、作者本人は「自分の意に反した改変をするな」(同一性保持権)と主張できます。


この二層構造は、障害者アートの場面でも直結します。施設や企業が「著作権を買い取った」と言っても、著作者人格権は作者本人に残り続けます。作品の改変を伴う商品化や、本人が望まないような使われ方には、この権利が関わってきます。



2-3 所有権と著作権——どちらが「勝つ」か


所有権と著作権が衝突する場面では、しばしば所有権の方が優先されるケースがあります。著作権法には「美術の著作物等の原作品を所有する者は、これを公に展示することができる」という規定(著作権法第45条)があり、適法に作品を所有している人は、作者の許可なく展示することができます。ただしこれは発表済みの作品に限られ、未発表作品を無断展示することはできません。このような例外の例外も含め、著作権法は非常に入り組んだルールになっています。



2-4 施設が材料を提供した場合、著作権は誰のもの?


福祉事業所の場面でよく問題になるのが、施設が画材や素材を提供して制作された作品の権利帰属です。まず著作権について言えば、創作した人に帰属するのが原則であり、材料を提供した側には著作権は発生しません。ただし、職員が作品の形状・色彩など創作性に関わる支援を行っていた場合には、職員あるいは法人との共同著作物となる可能性があります。


所有権については少し異なります。民法の原則では材料を提供した人に所有権があるとも言えますが、制作によって生じた価値が材料費を著しく超える場合は、所有権は作者に移るとされています(民法第246条)。とりわけ外部のキュレーターによる評価や展覧会での文脈化を通じて「アート作品」として認められた場合には、その価値は材料費を大きく超えると考えるのが実態に即しています。施設が材料を提供しているからといって一律に「施設の所有物」とみなすことは適切ではなく、作品の取り扱いについては事前に書面で取り決めておくことが強く望まれます。



2-5 同意は「包括的」でいいのか


企業連携や商品化を進める際、一度に包括的な同意を取ってしまう方が事務的には楽です。しかし、包括的な同意は本人が個別の機会に「選ぶ・断る」余地を奪う側面を持ちます。アサダ氏が問うた「本人は断れるのか、やめられるのか」はここに直結します。


出展・二次利用の承諾は、機会ごとに本人から得るのが原則です。二次利用の場面では、どのように使われるかを図版等の見本を示して説明した上での承諾が求められます。包括的な承諾は、十分な信頼関係が醸成された上でなければ、この分野の趣旨に沿うものとは言えないでしょう。まだ関係性が浅い段階で最初から包括的な権利処理をしてしまうことは、本人保護の観点から避けるべきです。



第3章:著作権等管理事業法——見落とされがちな「法的グレーゾーン」


企業連携や商品化・二次利用の仕組みを作ろうとする際、「著作権等管理事業法」という名前を聞いたことがない、あるいは「うちには関係ない」と思っている方は少なくないはずです。しかしこの法律こそが、現場で広がりつつある実践の多くを法的グレーゾーンに置いている当事者です。



3-1 この法律が生まれた経緯


著作権等管理事業法は2001年に施行されました。それ以前はJASRAC(日本音楽著作権協会)のような大規模な著作権管理団体を念頭に置いた「仲介業務法」(1939年制定)が存在していましたが、インターネット普及後の多様な著作物管理に対応できなくなったため、改正・再設計された法律です。


問題の本質はここにあります。この法律は、JASRACのような大規模・集中型の著作権管理を想定して設計されているため、福祉事業所や支援センターが個別の作家と結んで小規模に行うライセンス管理とは、そもそも「間尺が合わない」のです。しかし法律の文言上は小規模な実践も適用対象に含まれうるため、現場は意図せず法的リスクの中に置かれています。



3-2 法律が規制する「著作権等管理事業」とは何か


この法律が規制する「著作権等管理事業」とは、管理委託契約に基づき、著作権等の利用許諾の取次ぎ・代理・信託を業として行うことを指します。そのうち特に問題となるのが一任型管理——すなわち使用料の額の決定権限が管理する側(受託者)にある場合です。


たとえば施設や支援センターが「この作品はライセンス料○円で貸し出せます」という価格表を設けて、申し込みが来た際に本人にいちいち確認せずそのまま契約する——この運用は一任型管理に該当しうる可能性があります。本人が名目上は同意しているように見えても、実質的な使用料の決定権が施設・団体側にある場合も同様です。


一方、申し込みのたびに金額を本人に提示し、本人が「これでいい」と決定する形(非一任型管理)であれば、この法律の規制対象外となります。両者の違いは形式ではなく実態で判断されます。



3-3 登録すれば解決するのか?


「では登録すればいいのでは」という声があります。確かに、文化庁長官への登録という正面突破の選択肢はあります。しかし登録すると、今度は別の縛りがかかります。


登録事業者は管理委託契約約款と使用料規程を作成し、文化庁に届け出た上で公示する義務を負います。つまり「大企業からの依頼なら少し高め、はじめての取引先なら試験的に安め」といった柔軟な価格設定が法律上できなくなるのです。障害者アートの現場では、相手企業の性格や関係性の深さ、作家の意向に応じて柔軟に条件を決めていきたいというニーズが強い。しかし登録するとその柔軟性が失われます。登録・維持のコストも小規模団体には重く、現実的でない場合がほとんどです。


現状、障害者アート分野で著作権等管理事業者として文化庁に登録しているのは、障がい者アート協会(2023年登録)のみです。ヘラルボニーを含む多くの事業者は登録されていません。「登録せずにやっている」という状態が業界全体に広がっているのが実態であり、この状態は正直なところグレーゾーンと言わざるを得ません。



3-4 著作権譲渡モデルという選択肢とその問題


このグレーゾーンを「適法に」抜け出す方法として、著作権譲渡モデルがあります。音楽業界における音楽出版社と同じ仕組みで、施設や団体が作家から著作権を買い取り、自分たちが著作権者として外部にライセンスする形です。自分の著作物を自分でライセンスするだけなので、著作権等管理事業法の規制対象外となります。価格を相手や状況によって自由に変えることもできます。


しかしこのモデルには、冒頭に紹介したアサダ氏の問いが真っ正面から刺さります。著作権を一度買い取られてしまった作家は、後から「やっぱり返してほしい」と言う権利がありません。施設や企業が自分の作品を「所有」して自由に使い続けることに対して、本人が不満を持っても法的にはどうすることもできない——これが撤回不能性の問題です。


この問題に対する現時点での私の考えとしては、著作権譲渡を行う際に、本人の意思によって著作権を取り戻すことができる「撤回権」の条項をあらかじめ契約に盛り込む方法があります。完全に問題が解決するわけではありませんが、本人の意思を一定程度契約に反映させながら、管理事業法の規制外でライセンス管理を行える現実的な方法として検討に値します。ただし、どのような条件のときに撤回できるのか、撤回した後の作品の扱いをどうするか——こうした詳細のデザインに明確なガイドラインはなく、ケースごとの慎重な設計が必要です。



3-5 「三つの条件を同時に満たすモデルが存在しない」という現実


整理すると、現行法上の主な選択肢は次の三つです。


【非一任型ライセンス(本人が都度決定)】

使用料の決定権:作家本人

管理事業法との関係:登録不要

主な問題点:判断能力の確認が必要。実態として「本人決定」を維持できるか


【一任型ライセンス(管理者が決定)】

使用料の決定権:施設・団体

管理事業法との関係:登録・規程届出が必要

主な問題点:登録・維持コストが高く、柔軟な価格設定ができなくなる


【著作権譲渡モデル】

使用料の決定権:譲受人(施設・団体)の自己管理

管理事業法との関係:法律の適用外

主な問題点:撤回不能性の問題。本人への権利回帰が困難


現行法上、「適法・実現可能・本人保護」の三条件をすべて満たすモデルは存在しないに等しく、制度の欠缺というべき状況にあります。これは現場が怠慢なのではなく、法律が現実の実践を想定して設計されていないことの問題です。



3-6 では現場はどうすればよいか


だからといって「法律が整備されるまで何もしない」とはいきません。私がアドバイザーとして現時点でお勧めしている姿勢は以下のとおりです。


まず、自分たちの運用が一任型管理に該当するかどうかを実態ベースで点検することです。「本人に一応聞いている」という形式だけでなく、本人が実質的に断れるか、複数の選択肢が示されているかを確認します。次に、グレーな部分があると判断した場合は、弁護士や文化庁著作権課、または著作権情報センター(CRIC)に直接相談することをお勧めします。文化庁が積極的に告発するとは考えにくいですが、リスクを認識した上で事業を継続しているかどうかは、組織としての姿勢に関わります。


そして中長期的には、この分野に適した例外規定を法律に設けることを業界全体として働きかけていく必要があります。ヘラルボニーのような規模の事業者が登録なしで運営を続けていること自体、現行法と実態の乖離を示しています。「グレーのまま走り続ける」のではなく、制度の側を実態に即して変えていく議論が求められています。



第4章:利益相反の概念整理——「支援する立場」と「利益を得る立場」が重なるとき



「利益相反」という言葉は、法律の世界では比較的よく使われますが、福祉の現場ではまだなじみが薄い概念かもしれません。しかしこの問題は、障害者アートの企業連携・商品化を考える上で避けて通ることができない核心的な論点です。



4-1 利益相反とは何か


利益相反の本質は、支援する立場と利益を得る立場が同一の主体に重なることで、誰の利益を優先すべきかの判断が歪む構造が生まれることです。


社会福祉法人については、平成28年の社会福祉法改正により、理事と法人の間の利益相反取引について理事会での承認・報告が義務付けられました(社会福祉法第45条の16第4項)。ただしこれは「法人内部の利益相反」を想定したものです。法人が利用者(本人)の代理人として外部企業と契約する場面では、法人の利益と本人の利益が一致しない可能性という、また別の問題が生じます。この点は法律が直接規律していない領域ですが、社会福祉法第3条および第5条が利用者の利益最優先を経営原則として求めており、間接的な規範根拠として機能します。



4-2 障害者支援の場特有のリスク


一般的な商取引における利益相反と、障害者支援の場における利益相反には、重要な違いがあります。それは、施設や支援団体が本人に対して持つ影響力・信頼・依存関係そのものが、商業目的に転用されるリスクが生じうる点です。


たとえば、本人が「施設の先生が持ってきた話だから」「断ったら迷惑をかけるかもしれない」という心理的背景のもとで同意している場合、その同意は法的な意味での有効な同意と言えるか——という問いが生じます。滋賀県が策定した著作権等保護ガイドラインでは、「不利な条件による契約を余儀なくされることにより権利侵害が生じたり、契約そのものが無効になったりすることを防ぐことが事業所の責務」と明記されています。支援関係の非対称性そのものが、利益相反リスクの温床になりうるのです。



4-3「外部に任せれば解決する」わけではない


よくある誤解として、「自分たちが間に入ると利益相反になるから、外部の専門事業者に委託すればいい」という発想があります。しかし、これは問題を解決しません。


外部の中間支援団体や専門事業者が介在することで手続きが整備される側面はあります。しかし委託先との契約内容・手数料・本人への説明プロセスが不透明であれば、利益相反の構造は移転するだけで解消されません。さらに、委託先が使用料を実質的に決定する一任型管理に該当する場合には、第3章で述べた著作権等管理事業法上の登録義務という別の法的問題も発生します。「外部委託=適法・適正」ではないことを、関わるすべての立場が認識しておく必要があります。



4-4 介在者の三類型と発生しうる問題


企業と作家の間に何らかの介在者が入る場合、その構造によって生じるリスクの性質が変わります。


【施設が代理人として契約】

構造:本人は契約書に関与せず施設が署名

発生しうる問題:本人への説明・同意取得の欠如。契約が無効になる可能性


【施設が再販・ライセンス管理】

構造:施設が企業とマスター契約し本人に工賃で還元

発生しうる問題:収益配分率の決定権が施設にある。使用料の実質決定権次第で管理事業法上の登録義務も生じる


【中間支援団体・外部事業者が仲介】

構造:団体・事業者がマッチング料・手数料を上乗せ

発生しうる問題:外部委託で構造が移転するだけ。実質的な使用料決定権が誰にあるかで管理事業法の適用が変わる



4-5 手数料を受け取ること自体は違法ではないが……


施設や支援団体が関与することで一定の手数料を受け取ることは、それ自体が直ちに違法というわけではありません。問題となるのは手数料を受け取ること自体というより、支援関係を背景に本人に不利な条件が固定化されること、あるいは使用料の決定権を施設・団体側が実質的に握ることです。名目上は手数料であっても、本人に支払われるべき対価を過度に削り、施設・団体側の収益確保を優先する内容であれば、合意があっても無効または一部無効と評価される可能性があります。「合意があるかどうか」だけでなく「内容が合理的で本人保護の観点から説明できるか」という点まで含めて、対価の仕組みを設計する必要があります。



4-6 作者の判断能力と権利擁護——最も重要な確認事項


冒頭のアサダ氏の問いに戻ります。「本人は断れるのか。本人はやめられるのか」——これは権利擁護の最も基本的な確認事項です。


支援者が「本人の意向だから」と代理判断することと、本人が十分に理解した上で同意することは、全く別のことです。この区別が、利益相反の防止に直結します。本人が承諾・契約等の法律行為を行う際、その判断能力が十分でない場合には、不利な条件による契約を余儀なくされて権利侵害が生じたり、契約そのものが無効になったりすることがあります。


もちろん、何をどこまで理解させるかは「合理的な範囲」で考えれば足ります。しかし「どのように使われるのか」「やめたいときにやめられるのか」「お金はどれくらいもらえるのか」——この程度のことが本人にきちんと伝わっているかどうか、断れる状況に本人が置かれているかどうかは、関わるすべての立場が確認すべき最低ラインです。


判断能力が十分でない作者との著作権譲渡契約は法的に無効になりえます。またそうした作者が不利な条件の契約を余儀なくされないよう防止する義務が事業所に課されることは、滋賀県ガイドラインが明示するところです。この問題に対応する制度として成年後見制度(任意後見・法定後見)がありますが、現場では十分に活用されていないのが実情です。



4-7 利益相反から「共生のモデル」へ


利益相反があるからといって「何もしてはいけない」という話ではありません。たんぽぽの家・Good Job! センター香芝の実践が示すように、創作活動を支える施設のサポート環境には費用がかかり、商品化には外部クリエイターやメーカーとの関わりも増えます。創作者の貢献と施設・関係者の役割・貢献をそれぞれ明らかにし、対価や経費のバランスをはかることが「創作者と福祉施設の共生」のモデルとして提示されています。


対価の仕組みは、①実働作業時間数に応じた時間給、②著作物の販売・レンタル・二次使用に応じた手当、③原材料仕入れ・外注費・販売手数料等の経費、という三層構造で整理することができます。問題なのは利益が生じることそのものではなく、その構造が本人に対して透明に説明できるかどうか、本人の利益に適う形になっているかどうかです。



4-8 支援センター自身も問われている


ここまで施設や外部事業者の問題として論じてきましたが、支援センター自身も利益相反の問題から免れません。


支援センターは中間支援の拠点として本人・家族・事業所・企業・行政の間に立つ役割を担います。「誰の立場から、何を優先して判断するか」という中立性がガバナンスの中心課題です。特定の企業や団体との関係性を背景として、無意識のうちに特定の選択肢のみを提示してしまうことや、「国の委託事業からの推薦」として相談者に受け止められることで、実質的に契約判断を方向づけてしまうリスクは常にあります。


またマッチングの対価として企業や事業所から手数料・協賛金・委託料等を受け取る場合には、「本人にとって最善の条件」と「支援センターとしての事業・財政上のメリット」が同じ方向を向かない可能性が生じます。現在の支援センター事業は単年度が基本であるため大規模な包括連携は現実的ではありませんが、事業が複数年度化していく場合には、支援センター自身が著作権等管理事業法上の「一任型管理」に該当しないかという問いが生じてきます。「国の委託事業だから」「支援目的だから」という理由で法律の適用が自動的に排除されるわけではない点に注意が必要です。


アサダ氏の問いは他者に向けるだけのものではありません。支援センター自身がこの問いから免れないことを自覚した上で、誰が何のためにリスクを負い、誰にどのような利益が返っているのかを当事者と一緒に言語化していくプロセスこそが、支援センターに固有の倫理的実践になると私は考えています。



第5章:実務上の判断チェックポイント——現場で「何を確認するか


ここまで、著作権と所有権の基礎、著作権等管理事業法の法的グレーゾーン、利益相反の構造を順に整理してきました。第5章では、これらを踏まえて現場で実際に使えるかたちに落とし込みます。相談を受けた場面と、支援センターが企業と作家・事業所の間に立つ場面とでは、確認すべき事項が異なります。それぞれ分けて整理します。



5-1. 相談を受けたときの四つの確認軸


【確認軸①】著作権・所有権の帰属が明確になっているか


作品の著作権が誰に帰属するのか、所有権は誰にあるのかが、作者・家族と話し合いの上で明確になっているかを確認します。「施設が材料を提供しているから施設のもの」という思い込みがないか。アートレンタルの場面では、物(作品)を貸し出すのか、複製物を貸し出すのかによっても権利処理が変わります。「作品取扱規程」などとして書面で取り決めがあるかを確認することが望まれます。



【確認軸②】本人から(書面で)承諾を得ているか


出展・販売・二次利用の場面で、本人が「どのように使われるか」をイメージできる状態で承諾しているかを確認します。図版や見本を示した上での同意取得が理想です。最も重要な問いは、本人が「断れる」「やめられる」状況にあるかどうかです。外部事業者に委託している場合も、この確認責任は委託元に残ります。書面での承諾が難しい場合でも、確認のプロセスを記録に残しておくことが重要です。



【確認軸③】収益配分の透明性が確保されているか


本人への対価がいくらで、その算定根拠が説明できるかを確認します。施設・団体・委託先が受け取る経費や手数料についても、その金額と根拠を対外的に示せるレベルで透明性が確保されているかが問われます。「なんとなく慣習でこの割合になっている」という状態では、将来的なトラブルの温床になります。合理的な根拠を言語化し、相手方に説明できる状態にしておくことが最低限必要です。



【確認軸④】使用料の決定権が実質的に本人(著作権者)にあるか


使用料の決定権が施設・団体側に実質的にある場合、著作権等管理事業法上の登録義務が生じている可能性があります。「一応本人にも聞いている」という形式だけでなく、本人が実質的に断れているか、複数の選択肢が示されているか、断った実績があるかを確認することで、非一任型管理として整理できる余地があるかを見極めます。


登録義務が生じている可能性があると判断された場合の対応は段階的に考えます。まず使用料の決定プロセスを実態ベースで精査し、次にスキームの見直しを検討し、それでも解決できない場合に文化庁への登録を検討するという順序です。支援センターの立場からは、「著作権等管理事業法との関係で確認が必要な可能性があります」という形で問題を可視化し、専門家へのつなぎを促すことが適切な関与の範囲となります。


5-2. 企業と作家・事業所の間に立つ際の五つの留意点


【留意点①】自分たちは誰の立場に立っているかを自覚し、明示しているか


支援センターが本人・事業所側に立つのか、中立的な仲介者として立つのか、企業との関係上どちらに近い立場にあるのかを自覚的に整理し、本人・事業所にあらかじめ明示することが出発点です。既に関係性のある企業からの話を持ち込んでいるなら、そのことを伝える。この開示を怠ることは、利益相反的な行動に近づくことになります。



【留意点②】センターに入る金銭・便益の有無の利害関係者への開示


企業から手数料・協賛金・寄附・物品提供等の形で支援センター側に利益が流入する場合、その内容と金額を本人・事業所に開示します。金銭でなくても、企業との関係継続や事業実績の積み上げが動機となりうる点も含めて自己点検することが求められます。



【留意点③】使用条件・対価の提案が誰からなされているかを確認しているか


「企業がこの条件を希望しています」と支援センターが伝えるだけで、本人・事業所がそのまま応諾する構造になっていないかを点検します。本人・事業所が「断れない空気」の中で同意している場合、それは利益相反の問題であると同時に、著作権等管理事業法上の「使用料決定権が誰にあるか」という問題とも連動します。



【留意点④】本人への説明は誰がいつ行っているかを確認しているか


支援センターが事業所を通じてのみ本人に説明している場合、本人が実際に内容を理解しているかを確認できません。可能な限り、本人が理解できる形での直接説明と、断ることができる機会の確保を求めることが望まれます。


講座の質疑の中で新潟県の支援センターから共有いただいた事例が参考になります。企業の背景確認を行い、使用条件と契約内容を支援センターにも一度示してもらった上でつなぐかどうかを判断したという対応は、まさにこの留意点の実践として適切なものでした。



【留意点⑤】「紹介した後」の関与をどこまで担うかを事前に整理しているか


マッチング後に問題が生じた場合に、支援センターとしてどこまで関与できるかを事前に言語化し、本人・事業所・企業に明示しておくことが求められます。関与のあり方は大きく三つに整理できます。


(a)紹介・仲介にとどまり、契約後は当事者間に委ねるモデル

センター側の法的リスクは最小化されますが、問題発生時に本人・事業所が孤立しやすく、「支援センターのお墨付き」と受け止められていた場合には信頼失墜のリスクがあります。単年度事業である現状では現実的な選択肢の一つですが、本人保護の観点からは不十分な場合があります。


(b)契約内容の確認・助言を行い、履行監視は当事者に委ねるモデル

本人・事業所の交渉力を補完できる一方、助言の内容が不適切だった場合には専門家責任が問われる可能性があります。また弁護士法第72条との関係で、法律上の判断に踏み込みすぎると非弁行為のリスクも生じます。「有利か不利か」「結ぶべきか否か」という判断まで踏み込むことは避け、「明らかに一般的でない点・不明確な点を情報提供する」というかたちに留めることが現実的です。


(c)契約締結後も継続的に関与し、問題発生時に調整・仲介を担うモデル

本人保護の実効性が最も高いですが、センターに継続的なリソースと専門性が求められます。事業の複数年度化や専門スタッフの配置が前提となります。


いずれのモデルを選ぶにせよ、共通して求められるのは関与の範囲と限界を事前に言語化し、「支援センターが間に入っているから安心」という過度な依存を生まないことです。



相談できる専門家・窓口


現場から相談できる窓口をまとめます。法律判断が必要な場面では必ず専門家へのつなぎを促すことが重要です。


【文化芸術活動に関する法律相談窓口(文化庁)】

文化芸術活動に関わる法的問題について弁護士等が対応する無料相談窓口。


【著作権総合相談窓口(公益社団法人著作権情報センター:CRIC)】

著作権等管理事業法の適用判断を含む著作権全般の相談に対応。

電話:03-5333-0393(平日10:00〜12:00・13:00〜17:00)


【文化庁著作権課(登録制度の照会)】

著作権等管理事業法の登録制度・登録事業者一覧の確認はこちら。

代表:03-5253-4111


【Arts and Law(アーツ・アンド・ロー)】

弁護士・弁理士・会計士など有資格の専門家による芸術・文化・創造的活動への無料相談窓口。2004年の創設以来、独立・中立の立場からあらゆるジャンルの表現・創作活動への専門知識の普及と無料相談を提供しています。



おわりに——「違法か適法か」の二択を超えて


この講座全体を通じて繰り返し強調したかったのは、違法か適法かという二択で考えることの限界です。著作権等管理事業法との関係ではグレーな実践が広がっており、利益相反は障害者アートの現場に構造的に埋め込まれています。しかしだからといって「やめよう」でも「何でもあり」でもありません。


大切なのは、どのようなリスクがあるかを正確に把握した上で、組織として判断・記録・説明できる体制を整えることです。担当者個人の感覚に委ねるのではなく、組織のガバナンスの問題として捉えること。そしてアサダ氏の問い——「本人は知っているのか、本人は選べているのか、本人は断れるのか、本人はやめられるのか、本人に返っているのか」——をチェックリストとして内側に持ち続けること。この問いが揃っているかどうかを確認し続けることが、法的な適否の判断を超えた、本質的なガバナンスの実践になると私は考えています。


今後は第3回(2026年6月26日)で、参加者の皆さんが現場で直面している個別の相談事例を持ち寄り、具体的な論点整理を行う予定です。今回の内容と照らし合わせながら、ぜひ事例をご準備ください。

© Arts&Considerations行政書士事務所 

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