美大やアート・デザイン系学部における社会連携事業と知的財産権処理
- Arts&Considerations
- 5月7日
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大学が企業や地域社会と連携して行う社会連携事業は、創造性と技術の融合を通じて社会の発展に寄与する重要な活動です。このような事業において、学生や教員などの関係者が生み出す知的財産権の処理は、事業の成功に欠かせない要素です。
知的財産権とは、発明、デザイン、著作物などの創造的な成果に対する権利を指します。大学の社会連携事業では、これらの知的財産権が複数の主体にまたがることが多く、その取り扱い方法が重要となります。
〇知的財産権の共有と管理
社会連携事業においては、知的財産権の共有と管理が重要な課題です。例えば、学生が企業の製品に関する新しい外観のデザインを開発した場合、そのデザインに対する知的財産権はどのように設定し、報酬が分配されるべきかが問題となります。一般的には、事前に契約を結び、知的財産権の帰属や使用条件を明確にしておくことが推奨されます。
この場合、
①権利そのものは学生にとどめ、ライセンスを学生から直接企業等が受ける
②権利を大学が譲り受け、企業等にライセンスする(大学が著作権を集約する)
③権利を学生から企業が譲り受ける(いわゆる買い取り)
という3つのパターンに大別されます(ただし、大学やその付属機関の立場により、またいわゆる代理店やコンサル会社等が絡むなどのケースもあるため実際には更にバリエーションがあります)。
細かい注意点は多々ありますが、法務の専門家であっても見過ごしやすいミスを一つご紹介します。知的財産権の帰属を学生にとどめる①の場合の注意点として、特に著作権については他の知的財産権と異なり、企業等との間に入った大学が著作物の使用料(ライセンス料等、名目は問いません)について、学生の意思を都度確認せずに決定してしまう(一律に定めることも含まれます)と、「著作権等管理事業法」における無登録事業者の制限行為に抵触するおそれがあります。また、万が一、第三者がその著作物の権利侵害をしてきた場合、著作権侵害に基づく差し止めや損害賠償の訴訟を提起できるのが学生自身のみとなってしまい、大学や連携先企業、団体などは例えライセンスを独占的に受けていたとしても、直接侵害行為書に対する著作権侵害を主張できません。このように、他の知的財産権と異なり、著作権については学生自身の権利擁護の観点のみならず、その後のリスク管理も踏まえた形で関係者間で建て付けを行う必要があります。
〇知的財産権の保護と活用における教員向けFDの重要性
知的財産権の保護と活用において、教員の権利への理解も重要なポイントです。大学は、学生や教員など関係者が生み出した知的財産を適切に保護し、事業の成果を最大限に活用するための戦略を立てる必要があります。これには、特許の取得、著作権の登録、商標の申請などが含まれますが、全ての社会連携事業においてこれら全てを行うのは必ずしも合理的ではありません。特に上述したような事情から、製品よ外観や設計図にかかる著作権に関しては譲渡がベターである場合も多くあります。一方で学生の個人的背景を下敷きにした作品の場合など、著作権を安易に企業等に譲渡するのが正解とは言えない場合もあります。その後の管理を含めた費用対効果や、教育的な見地も踏まえ、専門家のアドバイスを得ながら適切に検討する必要があります。
特に権利の管理という観点からは、学生の在学中または当該社会連携事業の当初期間は大学が著作権を学生から無償で譲受け、卒業時に学生に返還する、ただし企業から継続使用の要望を受けた場合に限り企業からの追加ライセンス料を学生に支払う形で継続することも可とする、といった手法(前述の②のバリエーションとなります)も検討できるかと思います。
このように様々な観点からの検討を行う上で、大学教員(特に専任者)向けのファカルティ・ディベロップメント(FD)は、知的財産権の教育研究現場での取り扱いにおいて重要な役割を果たします。とはいえ教員が知的財産権の基本的な知識を持ち、学生に対して適切な指導を行うことは容易ではありません。
弊事務所では、美大やアート・デザイン系学部に所属する教員向けのFD研修を提供しており、知的財産権の重要性や処理方法についての教育を行っています。また知的財産権アドバイザーとして、大学の社会連携・産学連携等を実施する部署のお手伝いも行っております。さらに教員からの知的財産権に関する相談窓口といった役割もお受けしております。
弁護士や弁理士の顧問が既にいらっしゃる場合でも、より、現場に近い相談先としてご活用いただいています。
〇学生向けゲスト講義や単発講義
また、弊事務所は学生向けのゲスト講義や単発講義も行っており、知的財産権の基本的な知識や実践的な処理方法についての教育を提供しています。短時間で伝えられることには限りがありますが、現場の知見を伝えることで学生にとって印象的な講義、ワークショップを行っています。これにより、学生は自身の成果を保護し、将来的なキャリアにおいても知的財産権を活用する能力を身につけることができます。
なお、非常勤講師については原則として新規のお引き受けはしておりませんが、適任者をご紹介することは可能です。お問い合わせフォームからお気軽にお問い合わせください。
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